焦りが生む悲劇

From:脇田優美子

経営者なら、ビジネスの先行きに不安が募れば、その打開策を必死に探します。

たいていそういう時は焦りが生まれて、冷静な判断を欠いてしまいがちです。

また、無意識のうちに、自分が本当に欲しているものに手を伸ばすものです。

苦しい中から、突破口として新規事業に手をつける時などに、それは起こりやすくなります。

追い込まれると

ある中小企業が、かつて経営危機に陥っていました。

この会社の事業は、姓名判断による赤ちゃんの名付けサービスでした。

社長にプログラミング技術があったことから、コンピュータが自動的に姓名判断できる仕組みを作ったのです。

妊婦向けの子育て雑誌に広告を掲載して大ヒットしたそうです。

ところが、その人気に目をつけた広告掲載先の大手出版社が、なんと類似サービスを提供し始めてしまったのです。

ビジネスの世界では、こうして大手企業に踏みつぶされる事態は、これからはさらに増えてくることが予想されます。

特にAIを使ってできるようなシステムであれば、小さな会社がうまくやっていることは、大手であれば即実現できます。

しかも大手は当然、サービス内容もずっと充実させることができますので、後から参入されてしまうと、中小企業は先行していたにもかかわらず、勝ち目はありません。

もしあなたが、現状でうまくいっている事業があっても、それがすぐに真似されてしまうようなビジネスモデルであれば、何か対策を考えるべきでしょう。

実際、このエンジニアだった社長が開発したサービスは、あっという間に劣勢に立たされ、経常利益が年に数十万円というところに追い込まれてしまったそうです。

焦りが向かった先

このままでは会社が潰れます。

何とかするには新規事業を探さなければ、と焦った社長の目に留まったのが、「中国で、ある飲食店が大人気」という記事でした。

当時の中国では、日本製品や和食の品質の高さが支持を集めてブームになっている頃でした。

現地で事業展開する知人もいて、視察もして、飲食業の勢いを感じた社長は、一発逆転できると思い込んだそうです。

このあたりの話は、はたから眺めている立場であれば、「未経験の事業分野にいきなり飛び込んで勝ち目はあるのか?それは本当に自分の強みで戦える場所なのか?」などいろいろ思うところです。

しかし、自分が本当に倒産寸前まで追い込まれ、必死であったなら、この社長の焦る気持ちも理解できないことはないでしょう。

何とか浮上しようと頑張っていたのです。ただその目的が、とにかく一発逆転、だけだったために、冷静さを欠く判断に傾いてしまったと言えます。

これは肝に命じたいところですが、「倒れる者、ワラをもつかむ」というように、大変な場所から脱したい気持ちが強い時には、新しい事柄の良い面ばかりが目に入ります。

楽になりたい意識が心の目を塞いでしまい、マイナスの面を、見ようとしなくなるのです。

落ち着いて、リスクも十分に検討べきなのですが、そのような判断が働かなくなるのが焦りというものの怖さです。

何のため?

この社長は、語学学校に通い、家庭教師を雇い中国語を猛特訓しながら、ツテを頼り焼き鳥店で修業までしました。一生懸命だったことは間違いないのです。

そして、準備万端のつもりで開業するも、全くの惨敗。日々閑古鳥が鳴き、赤字が膨れ上がり、わずか4か月で撤退の憂き目に遭いました。

業績を回復させたいという必死の思いとは裏腹に、なぜ新規事業は失敗してしまったのでしょうか。

それは、とにかく儲けることだけを考えてしまったからでしょう。

お客様への思いが抜け落ちてしまうと、やはりどんなビジネスでも立ちゆかなくなります。

この社長が手痛い過ちを経て、倒産間近の状況で行き着いたのが、かつての主力事業の関連サービスとして細々と手がけていた出産内祝いギフト通販だったそうです。

新生児のいる家庭では、外出することなく内祝いを選べるのはとても便利です。

顧客目線で商品を増やし、写真も充実させるなど工夫したばかりでなく、以前有料で行なっていた良運命名サービスを無料化する、という思い切った仕組みにしたところ、事業が急成長したのです。

結果的に、大失敗した飲食事業の損失も一掃することができたそうです。

目を曇らせない

この社長の学びは
「目的が正しくない限り、成功はない」
ということでした。

これは、ビジネスだけでなく、人生全般にも言えることのように思います。

経営者であればなおさら、苦しい時ほど忘れてはいけない言葉ではないでしょうか。

焦りの罠に落ちないよう、日頃から意識して生きることが、いざという時の自分を助けてくれるのです。

 

PS
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