From:脇田優美子
暮れにいただくお歳暮の品々。その中に、同じ種類の商品を人に贈るとしたらこの会社のものがいいな、と思える品があったのです。
その商品からは、製造会社の企業理念のようなものが感じられました。あなたの会社の商品はいかがですか?
いただき物の食品についての小さな不便
お歳暮でいただく品と言えば、ハムやソーセージの詰合せなどが多いものですが、今回「おっ!これは…」と思ったのは、煮豚の詰合せでした。
贈り物に食品をいただくと、たとえばソーセージであればパックを開封してボイルしたり炒めたりして食べますね。
ハムなどですと、最近はスライスされて真空パックになっているタイプもありますが、タコ糸みたいな紐で縛られたブロック状のものは、パッケージを開けてからキッチンバサミで紐を切って取り除き、さらに包丁でスライスする必要があります。
この時ちょっと迷うのが、食べる分だけスライスすべきか、全部スライスしてしまおうか、ということです。
一応、商品に同封されている食べ方の説明用紙には、「一度に食べきれない時は、味が落ちないようにラップで包んで、袋などに密閉して保存してください。切り口が乾かないようにふさいでください」というような注意書きもあります。
しかし現実には…
面倒なので、一度に全部スライスしてしまうことが多いです。そしてカットしてしまったらなるべく早く食べないと傷んでしまうので、仕方なく次の日も食べ続けることになります。
その続けて食べる時に感じるのは、楽しく食べるというより、処理しなければいけないから消費している、というちょっと残念な感覚なのです。
煮豚の詰合せは煮豚だけではなかった
ところが今回いただいた煮豚の詰合せは、違っていました。
煮豚の詰合せに入っていたのは、煮豚だけではなかったのです。真空パックされた煮豚のかたまり2本と一緒に、チャック付きのビニールの保存袋が4枚が同梱されていました。しかもただの保存袋ではありません。ちゃんと蒸気抜きの穴まで付いている袋なのです。
そして商品パッケージの背面に、「煮豚の美味しい召し上がり方」という図解の説明書きがあり、ビニール袋の活用方法が書いてありました。
この会社の素晴らしいところは、実は蒸気抜きとチャック付きのビニール袋を同封してきたことにとどまりません。そのもっと奥の、お客様に対する考察ができている点にあるのです。
というのも、家電業界の例ですが、60代以上のお客様が家電製品を購入した時、使い始める前に取扱説明書を読まない人の割合が、なんと8割にものぼるというデータがあるそうです。
その状況と、今後60代以上の人口が激増することに対応する必要性から、取扱説明書を読まずに操作してしまっても故障せず事故を起こりにくくし、商品を満足して使用してもらえるための専門部署まで構えて研究しているというのです。
取扱説明書を読まないお客様は、まずどこに触るのか、どのボタンを押してみるのか、などの想定から始まって、スムーズに無事に使えるように家電製品の仕様を変更するわけです。
この事例と、先ほどの煮豚となんの関係があるのか?
煮豚の詰合せにせっかく同封したビニール袋も、取扱説明書を読んでもらわなければ「何これ?」で終わってしまいます。「残ったらこれにしまっておくってことかなぁ?」くらいで、迷ったら面倒なので使わないでしょう。
ところが、どのお歳暮の詰合せでもそうですが、食べ方や保存の仕方は、商品パッケージには印刷されておらず、外箱の中に別紙として同封されています。これでは外箱と一緒に、読まずに捨てられている可能性が高いと思いませんか?取扱説明書を8割の人が読まない事実からしても、商品本体以外はさっさと捨てられているのではないでしょうか。
売り手やお店、会社側の人間は、説明書を入れてあるから大丈夫、説明書を読めばわかるはず、と考えてしまうものですが、その想定はまず間違っていると思ったほうがよいでしょう。
お客様は、こちらの考えるように都合良く行動などしてくれない、そう捉えるのが自社の発展に不可欠な視点です。煮豚の製造会社はそのことに気づいているので、食べ方の説明書きを外箱に同封しなかったのです。開封時に外箱と一緒に捨てられる可能性が高いと知っていたからです。
商品本体のパッケージに図解しておけば、食べようとするその時にさすがに目に入ります。そして、そのまま食べるより、蒸気抜きのチャック付きビニール袋に入れてボイルしたほうが、より美味しく食べられることに納得できます。
自社の商品を一番美味しいと感じてもらえる状態で口に運んでほしい、お客様のもとに届けて終わりではなく、理想的な食べ方をしてもらい本当に美味しいのだとわかってほしい、そういう会社としての思いがなければ、このような気づきは得られないでしょう。
その思いがあるから、ではいったいお客様は自社商品が手元に届いたらどんな風にそれを利用するのだろうか?と考え始めることになります。
煮豚は開封するときパッケージから汁がベチャベチャと出て、それなりにうっとうしいところがあります。食べようとする時に冷蔵庫から出して、よくわからず長いかたまりを適当にカットして、冷たいまま食べてしまうなんてこともあるかもしれません。
だからこの会社では、そんな食べ方をさせないために、カットの向きを図解して、6個に切り分けるように、と切り目まで指定する念の入れようです。
お客様に最後まで寄り添うと
2本の煮豚に対してビニール袋が4枚入っていたのは、2枚は今すぐ温めて食べる用、もう2枚は今すぐは食べない分を、後で食べたい時にすぐ温められるための保存用でした。
4枚を同梱したこの会社は、お客様の行動を時間の流れに沿って読み取っていることがわかります。家族の人数が多いとは限らないので、一度に食べきれない場合、ベチャベチャの汁まみれの煮豚の残りをどう片付けるのだろうか?と考えたのでしょう。
それなら最初から、今すぐ食べる分と、残しておく分をいちどに袋に入れて片づければ、残りも調理器具も手も汚すことなく、簡単にボイルできて美味しく食べてもらえるだろう、そのために専用袋を4枚用意したわけです。
自社の煮豚を最後まで気持ちよく美味しく食べてもらいたい、という思いからこれだけのことができますし、その会社の姿勢は、お客様に必ず伝わります。
一消費者として、「気が利いているなぁ」「食べる人のことをよく考えているなぁ」と気分がよくなりました。そして、誰かに煮豚を贈りたくなったらこの会社にしたいな、とも思いました。
こんな気遣いができる会社の商品を贈るのは、贈る側も気持ち良いものです。受け取ってくださる相手も同じような気持ちになるのではないでしょうか。
売った後に自社商品がどう使われるのか、十分に活用しきっていただくためにできることは何か、お客様と商品がかかわる最後の場面まで徹底的に考えることで、見えてくることがきっとあると思います。
PS
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